器用さ (まえかわ)

さて、前述のミラー先生の著書の話の続き。

 

 

このブログを読まれている方で、ひょっとしたら医療従事者以外の方もいらっしゃるかもしれません。

患者さんたちは、当然ながら外科医に自分の手術が成功するだけの『器用さ』を求めるわけです。

こういう話題になりますと、いつも金先生の言葉を思い出すのです。

 

『先天的なモン(=天賦の才能)を後天的なモン(=トレーニング)でどれだけ伸ばせられるかなんやけどな』

 

(←カッコイイこと言います。)

 

 

生まれつき器用な金先生みたいな人(手先が器用、空間認識力が高い、体性感覚が鋭い・・・)もやはりいますが、トレーニングという要素も結構大きいのです。

したがって、私のような凡人はやはりトレーニングで能力をどれだけ伸ばすか、ということになります。

 

 

 

でもですよ、ミラー先生も救いようもない不器用な外科医にあったことがあるようです。

 

このミラー先生の3つ位上のチーフレジデントで『HODAD』と異名をとる人がいたそうで、このHODADというのは・・・

 

Hands Of Death And Destruction(=死と破壊の手)のことです。

 

その外科医は、患者さんに挿入されているドレーン(手術部位から排液するための管)を抜くとき、皮膚に固定されている糸を切らずに患者さんの皮膚ごと引きちぎったり、術中助手の手を針で何度も刺したり、自分の手袋を患者さんの傷口に縫いこんだりなど、恐ろしいことをたくさんしでかしたそうです。

 

この外科医は、働き始めるまで学生時代首席を取ったり、論文で学術業績あげたりとそういう面では素晴らしい方だったようですが。

 

私は精神科医ではないのであまり詳しいことを言えないのですが、いわゆるアスペルガー症候群だったのではと推察されます。

 

 

 

前の病院で修行時代、私も同じような方に会いました。

 

新生児科に、私と同学年の飲み友達の女医さんがいたのですね。

 

ある日、新生児科に術後患者さんの傷を見に行きますと、この先生が半べそをかいているのです。

 

私   『O先生、どうしたんすか?』

 

O先生 『まえかわ先生・・・ もうダメ・・・ 聞いてよーーーッ』

 

・・・

 

彼女が指導している3年目の後期研修医が、採血するときに新生児の患者さんのかかとを針で焼き鳥みたいに串刺しにしてしまったというのです。

どういうことかといいますと、新生児というのは採血が難しいので、比較的神経が少ないかかとを針で斜めに削るようにして出血させ、ぽたぽたと採血することがあります(ヒールカットといい、小児科医の基本技術です)。

 

この後期研修医は、何度教えてもかかとに向かって垂直に針を刺し、揚句串刺しにしたというのです。当然、かかとの骨を損傷しますと骨髄炎になったり、深く入ると神経障害を起こしたりします。

 

この後期研修医も、どこの研修指定病院はどんな指導医がいて、何床ベッドがあって、何科が実力あって・・・とかそういうことは博学なのですが。

 

やはりこどもさんたち(と保護者)にはありがたくない小児科医であることは論を待ちません。

 

 

さて、器用さとトレーニングの話にもどります。

 

私は毎年医学部の4,5年の学生さんに糸結びを教えており、長野修行時代を除くとおそらく300人以上に指導していると思われます。(詳しくは、you tubeで『山形大学第二外科』と検索してください)

 

大体1時間くらい指導するのですが、これでも憶えられない人はいままで1人しかいませんでした。

外科医に絶対向いていない、という人はこれくらいの頻度だと私は勝手に思っております。

つまり、のこり299人の方であれば、あとは忍耐強いトレーニング次第ということです。

 

 

国家試験までは、マークシート式の脳みその使い方で済むかもしれませんが、一度医者になってしまったら、本当に多彩な能力(とそれを身に着けるトレーニング)が求められるものです。

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コメント: 2
  • #1

    読書の秋です (金曜日, 12 10月 2012 12:44)

    先生の本、面白そうですね。
    看護学生によると、高校までの時期に本(マンガも)やテレビの影響を受けて進路を決めて来る子も結構いるようです。
    外科の先生方は器用だなといつも思います。
    お料理とかも上手なんだろうなと妄想してしまいます。
    前川先生はお裁縫や編み物とか上手そうです。
    (気を悪くされたらお許し下さい。)

  • #2

    まえかわ (土曜日, 13 10月 2012 19:46)

    気を悪くすることなどございません。
    コメントありがとうございます。

    マンガでもなんでも、憧れというのは大事かと存じます。私も荒唐無稽でもブラックジャックはカッコいいと思うのです。

    見渡しますと、当科で料理をせざるを得ない境遇にいるのは、私くらいかと推察されます。
    ちなみに、私はボタンつけしか出来ません... ご期待に添えず残念です。