体肺動脈短絡術 (まえかわ)

こどもの心臓の手術が終わりICUに帰ってきます.

 

前に私が修行に出ていた病院ではICUは面会時間は決まっておらず,親御さん達がインターホンを押し,処置をしていなければいつでも入ってこられるようになっていたのですね.

 

残念ながら当院ではそうなっておらず,1日4回の決まった面会時間に親御さんに入ってきていただくというかたちになっております.

お母さんがいないと乳幼児くらいのこどもさんたちは当然寂しがって泣くわけでして,そんなときにICUのある看護師さんが(何も見ずに)さらさらとカキポン氏に,アンパンマンキャラを描いてくれました.

 

 

こりゃあ上手だ!!

 

 

と感心し即iPhoneで撮ってしまったのです.

 

何も見ないで絵を描くなんて結構難しいものです.

私などは,家内の姪御さんにお絵かきをねだられることがありまして,この時も『シカ』と『ゾウ』をうまく描き分けられなかったことがあります...

 

 

 

さて,先日医学書籍専門店をプラプラしておりますと,非常にくどいタイトルの本がありました.

 

『外科研修医熱き混沌(医歯薬出版)』

 

背表紙もくどいくらい真っ赤で,大学病院前のラーメン店『龍○海』の辛みその様相を呈しております.著者のクレーグ・ミラーという方は私たちの業界では有名な血管外科医の先生なので,つい買ってしまいました.

 

これを読みますと,アメリカの外科研修医の過酷なローテートが著されております.

 

この先生がローテートした小児心臓外科の話が興味深く書いてありました.

小児心臓外科は温厚な部長と,性格がいまいちな副部長とでなされ,ここに若き日のミラー先生が6週間ローテートしたそうなのですね.

 

部長は温厚で性格も慎重,手術成績もよい.

副部長は性格が悪く偏屈で,敢えて難手術に挑むが手術成績が悪い.

 

小児心臓の手術に体肺動脈短絡術(ブラロック・タウシッヒ手術)というものがあります.

肺の血流が少ないチアノーゼ性心疾患のこどもさん達に行われる手術で,手を養う血液の一部を肺に流し(短絡し)て,チアノーゼを改善させるものです.現在は,4-5mm程度の人工血管を用いて行われることが主流です.

最終的な根治手術の前段階の手術です.

 

この副部長がミラー先生と一緒に,前回体肺動脈短絡術を行われたこどもさんの,根治術をすることになったのです.

部長は慎重ですので,胸を開けるときにこの前回手術の人工血管を損傷しないように,慎重にはさみで胸骨をあけるのです.しかし,副部長はよく考えずに電動のこぎりで胸をあけ,人工血管を損傷,大出血させてしまいこのこどもさんを死なせてしまうのです.

(医学生さんのために追記しますと,胸骨のすぐ裏を通っているので,腕頭動脈からつないでいるセントラル・シャントと推察されます.)

 

この大出血をさせたとき,副部長は周囲の手術助手や看護師に散々当たり散らすのでしたが,普段からこの副部長はそんな感じですので,患者さんを死なせてしまっても,誰も気の毒がらないという感じだったとミラー先生は述懐しておりました.

 

 

 

私もこの業界にいて,そろそろ10年になります.

患者さんの具合が悪くなったときにこそチームが知恵をしぼって一丸とならなくてはならないのですが,患者さんの具合が悪い,急変する,手術中に大出血してしまう,という時に他人のせいにして当たり散らす,怒鳴り散らす,という外科医は残念ながらたまに存在します.(こういう方たちは,怒鳴り散らす自分に全員が従うことがチーム医療だと固く信じているので,なおたちが悪いのです)

ミラー先生も同じような思いをしたようで,日本でもアメリカでも,同じような人はいるものです.

 

そういう上司の下についてしまったら,

 

『待てば海路の日和あり』

 

と思ってじっと耐えるしかありません.

 

当然,自分が上になった時にも気をつけなくてはなりません.