モザイク (まえかわ)

イメージは手術室前のお雛様ですが,私は今日当番ですので,ひな祭りらしいこともせずに医局でこの文章を書いております.

 

 

長野時代に,東京の有名な歯科大学から麻酔科研修に来られているS先生と飲み友達になりました.

年齢は私より少し上でしたが,まあほぼ同世代ということで,まわりが田んぼしかなくて遊ぶところがあまりない土地でしたので,よく連れ立って安曇野市,遠ければ松本まで出て飲み歩いていたのです.

全国から長野に修行に集まってくるこの『フェロー』という立場の下っ端医師,下っ端看護師を集めて,このS先生と『いじめられっ子の会』というのを立ち上げて,くじけない様に定期的に飲んでいたんですね(傷を舐めあうともいいます).

このフェローと呼ばれる下っ端医師は,大体4-8年目くらいの人が多かったでしょうか.同年代だから,すぐ仲良くなります.

フェローといいますのは,いわゆる『レジデント(研修医)』の少し上の立場で,自分のスペシャリティ・サブスペシャリティ(私の場合それぞれ,心臓血管外科・小児心臓外科)を極める途上にある『修練医』(女子医大風にいうなら『錬士』)みたいな駆け出し医師のことです.

 

 

このS先生の所属していた医局は,代々知的障害児の方の歯科治療を研究されていたそうで,大学院生が潤沢にいたみたいなんですね.下っ端院生がみんな分のカレーを作ったりして,上の先生の研究をサポートするような感じだったそうなのです.

 

S先生が一番下で院生になったとき,はじめに命ぜられた仕事というのが,この『カレー作り』『モザイク処理』だったそうです.

 

 

『モザイク処理』と言いますと,何やらいかがわしい感じがいたします.

 

 

どういうことかと言いますと,知的障害児の方ですので,歯科治療をする際に相当暴れるそうなんですね.

それを歯科の先生何人かで抑え付け,抑制して処置台に治療できるようえっほえっほとかついで連れて行きます.

そして,必要なら麻酔薬を追加投与するそうなのです.

 

それなりに体格が大きい患者さんですと,まさしく修羅場になるそうなんですな.

 

上級の院生が直接患者さんの治療を担当し,下っ端はカレー作ったり,この治療の一部始終のデータを取るために,ビデオ撮影をさせられるそうなんですね.

 

患者さんのプライバシーが保護されるように,目を隠すためこのビデオのモザイク処理が必要となるのです.当然,そうとう患者さんは暴れますから,モザイク処理は相当大変であることが想像されます.しかし,肝心の口のまわりだの歯だのにモザイクがかかりますと,研究に支障が出ます.

 

 

S先生は,さも得意げに

 

『いやーッ,おかげでモザイク貼るの上手くなりましたよーーーーッ!!! まえかわ先生ーーーッ』

 

と熱く語ってくれました.あまり日常で汎用することがないテクニックと推察されます.

 

 

日本全国でいろんな研究をされている先生がいらっしゃると思いますが,この先生の研究活動の端緒を開いたのが『カレー作り』『モザイク処理』とは,世の中いろんな研究があるものです.

 

 

S先生の学位を取得された研究の内容を後日お聞きしたのです.

 

『歯科浸潤麻酔における下顎の神経伝達の速度』みたいな内容で,モザイクの『モ』の字もありませんでしたが,何事にも下積みは欠かせないものです.