意識のトラップ (まえかわ)

彼の名は『ゾウさん イン ゾウさん』と言います。

 

放浪癖のあるハヤシ君が、今年の夏休みにインドで買ってきてウチの医局の神棚に飾ったのです。ご利益があるものかどうかわかりませんが、湯殿山の御札と仲良く並んでおります。

よく見ると、ゾウさんの中に、反対を向いたゾウさんがいます。

 

『意識』と『意識下』を象徴している(?)のかもしれません。

 

 

『トラップ』のはなし。

 

ある週末の夜9時過ぎ、当番の私に病棟から電話が。

 

『先生、心臓術後のこどもの患者さんが吐いています』

 

ここまでなら普通なんです。次の一言に私は壮絶に違和感を感じたのです。

 

『嘔気時の指示を下さい』

 

 

『なんで吐いてるかわかんねーだろ。診察するから今から行くよ。』

 

 

(指導者が厳重に監視している)1年目の看護師さんはこういうことを絶対言わないのですが、これは2-3年目の看護師さんがするピットフォールなのです。つまり、患者さんの持っている病状に対するアセスメントをしなくても【流れ作業的】になんとなく仕事ができてしまう、アブナイ時期なのです、この看護師さんがさしかかっているのは。

(この看護師さんは、『吐いている原因が分からないので診察してください』というべきだったのです。)

 

患者さんの兆候に気づくのは大事なことなのですが、その兆候にフタをする機転が働いているのです。

 

例えば、抗がん剤治療をしている患者さんは多くの場合吐き気が出ますから、それに対する予測指示『嘔気時 ●●● 1筒 静脈注射』というのは医師と看護師の合意で当然あってもいいと思うのです。

 

しかしながら、心臓の手術をした子どもさんが吐くというのは、例えば

①病棟でひそかにノロウイルスがアウトブレイクを起こしつつある。(←まだひっぱってますけど、要注意です)

②ジギタリス製剤などの強心剤に対して薬物中毒を起こしている。

③この患者さんは心不全で急変をおこす一歩手前である。

 

ということを考えなくてはなりません。

 

従って、この看護師さんが欲しがる(そして思考力を奪う)嘔気時の予測指示は私は当然ながら出しませんでした。

アセスメントを伴わない予測指示というのは危険だとこのことは示しています。

 

どうしても、田舎に行けば行くほど看護師さんに対する医師の数は減ります。

従って、『医師が不在時の予測指示』というものに頼ってある程度患者さんに対する治療が運営されるのは仕方の無いことです。

 

(一方、海外の有名な集中治療室を持つ施設は24時間365日常勤医がいるので、こういうところでは予測指示はおそらく必要無いと思われます。実際、長野でもそうでした。)

 

 

ところで・・・

 

このサイトの貞弘教授の言葉にもありますが、『まず患者のベッドサイドに足を運べ』というのは、外科医にとって真実だと思うのです。

トシを取ると腰が重くなって電話でなんでも済まそうという医師が少なくありませんが、電話で5分以上病棟と話す必要がある内容は、さっさと病棟に足を運んだほうが全て速やかに解決する気がします。

 

 

『意識のトラップ』

 

 

患者さんや看護師さんが発するアラーム(そして、多くの場合自分もこれに意識下では気づいている)にフタをするのは、えてして『面倒くさい』という心の動きです。

 

ボヤのうちに消さなければ、待っているのは『患者さんの急変』です。

急変しなかったから良かった、というのは必然ではなく偶然です。

 

(今日は説教臭くてごめんなさい。それなりにオッサンになったのです・・・)