天使のいる場所・ゼク (まえかわ)

長野修行時代,この病院をモデルにした『天使のいる場所』という作品が,講談社のデザートという女性向けのコミック誌に掲載されていました.

『N県立こども病院』を舞台に,各科をローテートする女性の研修医の成長を描く,というような話で,やたらこの主人公の女医さんが泣くんですね.

作者の折原みとさんがたまに取材にこられていたそうですが,私自身はお会いすることはありませんでした.

 

長野のICUの看護師さんのラウンジには,この『デザート』が必ず置いてあって,○○先生が名前アレンジされてて載ってるよ,とか,カッコよく描きすぎじゃない? とか・・・.

 

 

この『天使のいる場所』で,生後数カ月くらいの複雑心奇形の術後の患者さんが,手術のあと病状が立ち上がらずに,亡くなってしまうという話があります.

 

で,ゼク(病理解剖)を病理医の先生とするんですね.

 

手術の傷をもう一回開けて,心臓を取り出します.

で,心臓に奇形がある患者さんは,ほかの病気にも奇形が合併していることが結構あります.たとえば,肺の分葉です.普通は右肺は3つ(上葉,中葉,下葉),左肺は2つ(上葉,下葉)ですが.それがひっくり返っていたり.肝臓は右,胃袋は左ですが.これもひっくりかえっていたり・・・.

いわゆる『内臓逆位』という病気です。

 

病理解剖の時はこの内臓をすべてとりだして,内臓ごとにホルマリンで固定するのです.

 

主人公の研修医の先生は辛くなって目をそむけてしまうんですね.

 

すると,病理の先生が怒るんです.

『こら,研修医,目をそむけるんじゃない!! 亡くなった患者さんから学びなさい。それが礼儀だ』と.

 

(長野在職中は、このモデルの病理医の先生とも院内感染対策を通じて懇意にしていただきました)

 

で,内臓をすべて取り出して空っぽになった体腔に『高分子ポリマー』をつめて,親御さんが後で抱っこした時に軽くて違和感を感じることがないようにするんです.

折原みとさんが見学したときには高分子ポリマーを使用していたようですが,私が修行に行っていたときは氷塊を使っていました.それから、看護師さんがきれいにエンゼルケア(血色よくメイクするなど)して、お母さんにだっこしてもらうのです。

 

 

長野時代の私の恩師の先生は,この氷の量を見極めるのがすごく上手だったそうです.

 

長野でも,残念ながら数回病理解剖に立ち会う機会がありました.施設により方針は違うと思うのですが,この病院では基本的に亡くなられた患者さんは全例病理解剖を行っていました.

このマンガの病理の先生がおっしゃっている通りで,『亡くなられた患者さんから学ぶ』ということなのでしょう.

 

病理解剖室というのは、床を掃除しやすいようにするためだと思いますがタイル張りのひんやりとした部屋がどこの病院でも多いと思うのです。

長野の恩師は、病理解剖で知るべきところをきちんと評価しホルマリンに浸漬した臓器を整理すると、銭湯で使うようなブラシで颯爽と床掃除を始めました。

その掃除の手際よさ、解剖室に小気味よく響くゴシゴシ、というブラシの音。たくさんのこどもさんの死に立ち会って、苦労されてきたんだなあと、若造の私はいたく感銘を受けた記憶があります。

 

 

 

私の持っている教科書に、これと同じような海外の偉い先生の言葉がありました。

 

It is said that the death of a child is the single greatest tragedy that anyone can face in a lifetime.

The congenital heart surgeon bears witness to the truth these words many times in a career.

On the other hand there is no greater reward than to be able to save a child from the certain deart threatened by a serious congenital cardiac malformation.

It is this fact, and the fundamental knowledge that one has made every possible effort to do one's best for every child, that allows the congenital cardiac surgeon to carry the weight of those who do not survive.

 

 

未熟な私が下手な訳を振るのも忍びないのです。