ある寒い日の救急当直(まえかわ)

イメージは、今朝の当直明けの救急部の処置室です。

救急車で運ばれてきて、ダイレクトに中央のストレッチャーに患者さんが移送されるという、かなり機能的な構造となっております。

 

 

 

外はかなり寒そうです。

こんな寒い日に救急外来をしていると、あるエピソードを思い出すのです。

 

大学病院のような高度医療施設とはかなり毛並みが違うのですが、温泉街にたたずむある病院で当直バイトをしていた時のこと。この町の警察は、昔からいわゆる異状死体(平たく言うと病院以外で死亡した死因の不明な遺体)を発見すると、この病院の当直医を強制的に『拉致して』検死させる風習があるそうなのでした。

 

ある雪深い寒い日の夜、この温泉街の病院に電話が。

 

「○○警察署です。変死体がありますので、先生をお願いします。」

 

事情を聞くと、変死体があって検死しなくてはならないのだと。この町の風習で、この検死という作業は断れないようなのです。

しょうがないので拉致されました、ゴツイおまわりさんたちに。

(肩幅が、みんな私の1.5番くらいある・・・)

 

ある民家で、御老人が御家族が気付いたら既に息を引き取っていたというのです。民家には既にパトカーが3-4台とまって、お巡りさんがゾローっと10人くらい控え、床の間にひかれた毛布の上に裸にされた御遺体の周りで鑑識的な方たちがなにやらグッズを展開しております。

 

私が到着すると、ゴツイおまわりさんたちが

「先生!  先生ッ!!!」と敬礼してくるのです。

(男子高校生がやたら『押忍、押忍ッ!!』と連呼するような非常にムサい場面と想像してください)。

 

ヒーーーーーーーッ!!!!   

なんだかヤクザの親分にでもなったかのような気分でした。

 

 

鑑識的おまわりさん「じゃあ先生、心臓穿刺をおねがいします。」

 

鑑識的おまわりさんが部下にむかって

「おい、ポンプだせ、ポンプ!!」というではありませんか。

 

この『ポンプ』とい言うのは、彼らの業界用語で注射器のようなのです。(病院では『シリンジ』という)

 

私は嫌々長い針を肋間を通して心臓を刺し、既に血流が滞りほとんど凝固しているであろう血液を絞り出すように採取し、コワモテのおまわりさんに差し出すのです。 なぜ彼らが心臓を直接刺せ,というかは分かりません.

 

 

鑑識的おまわりさん「じゃあ先生、次はルンバール(※腰椎穿刺,髄液採取)お願いします」

 

といって、御遺体を横に向け、腰椎穿刺をして髄液を採取してくれ、というのです。この『ルンバール』という語は、医療施設とも共通する業界用語でした。

とはいえ、いつもの腰椎麻酔をするときのように、針が腰椎の間隙を通りやすいように患者さんが猫のように背中を丸くしてくれるわけではありません。相手は、既に冷たく硬直している御遺体なのです。

 

ようやっと髄液をおまわりさんに差し出すと、

 

親分的なおまわりさん「先生、死因は頭ですかね、心臓ですかね」と。

 

私「分かりません」

(法医学者のサスペンスじゃないんだから、私みたいな下っ端外科医がわかるわけないでしょ・・・)

 

おまわりさん「じゃあ、心臓ってことでいいですかね」 (『じゃあ』のイミが分かんない・・・)

 

私「いいんじゃないですかね・・・」 (もーいい加減帰りてーよー)

 

という風な感じで、この方の死因が決まってしまいました。

この御遺体の冷たさ,安置されていた部屋の畳の冷たさをときどき寒い日に救急当直していると思いだすのです.

 

 

パトカーで,疲労困憊の状態で病院まで送り届けられた私を待っていたのは,当直室にすでに届けられた『死亡診断書』でした・・・. 

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コメント: 1
  • #1

    当直中 (火曜日, 22 9月 2015 21:06)

    これから検死なんでいろいろ見て回っているのですが
    髄液は頸椎からが多い気がします.