貞弘光章教授からのメッセージ

 『加速する外科系メジャー診療科のマイナー化への流れ』


高齢化社会の到来に対しては医療経済面のみが論議されているが,もっと大きな医療供給体制の地盤変動となりうる問題として,将来の医療供給者となるべき医学生が卒後の進路として内科や外科の俗に言うメジャー科を選択することが少なくなっている懸念がある.高齢者増加に伴うガン,生活習慣病,循環器疾患とそれらが複雑に絡む全身的病態、更に救急医療にマンパワーとして対応できるのだろうか.

 最近、特に外科系メイジャー診療科全体の若手希望者が減少傾向である。30年前となるが私の卒業時の同期生を数えると、ナンバー外科(消化器一般外科)に15名、心臓外科に7名、脳神経外科5名、小児外科1名、呼吸器外科1名と合計29名が外科系メイジャー診療科を専攻して現在に至っているが、昨今の卒業生は数名が外科の門徒を叩くのみである。初期研修制度の開始後は大学病院ではその減少が顕著であり、入局宣言者がゼロの年も珍しくない。一般病院研修を選択した卒業生はどうかというと、やはり一生の生業として最終的に外科を選択する人数は多くなく、昨年の日本外科学会会員数の報告では新規入会者と脱会者数の差がマイナス91名であり、毎年医師国家試験合格者が量産されている中で不人気は明らかである。一方、マイナー診療科の希望者は確実に毎年数名を数え、講座単位でも医局員数は今ではナンバー外科教室を凌駕している。若手医師数から見れば、正にメイジャー診療科のマイナー化、マイナー診療科のメイジャー化の流れである。

 外科医の中では「2020年問題」なるものが囁かれている。それは私の世代前後の外科志望者の多かった世代が定年を迎え、一戦を離れる時期を指す。その数年後から急激に外科医人口ピラミッドが収束を始め、著しいマンパワー不足から外科系診療の職場環境を悪循環させ,救急医療や他診療科へのサポート,病院機能維持への懸念がある。その声を他所に,病院経営の収益上から手術部門への期待は大きく,全国国立大学病院や地域の中核病院でもでも手術件数を軒並み伸ばす戦略が取られているが、外科医供給と経営戦略および多様化する疾患の増加による需要増加との間のギャップは修復できないほど大きくなり、国民医療全体にしわ寄せが来るという予測である。

 メイジャー診療科のマイナー化。それのもたらす近い将来の医療需要と供給のアンバランス、医療崩壊の究極の火種となることは十分に推測できる。医学部学生も卒業後の専門選択は真剣そのものであろうが、バランスに欠けた分布を招く事態になった理由は何なんだろう。情報化社会、労働対価を冷静に比べた金銭至上主義、学生気質の変化などが指摘されようが、私見を述べれば、医師国家試験科目のマイナー科必修に遠因があるように思う。我々の世代の国家試験ではマイナー科は年度ごとの指定2科目だけであった。そのせいかポリクリでもマイナー科ローテートの時は力が入らなく、また、期間も短くメイジャー主体のカリキュラムであった。しかし,国家試験科目のマイナー科必修以降の学生教育カリキュラムの変化として,全科必修のため学生はマイナー科でも気が抜けなく、また、実習期間はマイナー、メイジャー含めて均一となり、結果、科目数の多いマイナー科ローテート期間が全実習の7割を占めている。学生はマイナー科に目が向くし、マイナー科の持つ分かり易さ、診断から治療にわたるスマートさなどを体現する。最近はメイジャー外科を選ぶための決心の度合いはマイナー科選択よりも遙かに大きいと聞く。だからメイジャー科志望者は決断のできないまま、まずは卒後一般病院研修を選択してしまい最終診療科選択を遅らせる。次の要因は専門医重視の流れの中で、マイナー=スペシャリティ、クリアーカット、対して、メイジャー=ジェネラル、ファジーの印象が先行し、例えば外科学会や内科学会の二階建ての専門医というイメージは、マイナー科の端直な専門医と比べて、時間のかかる遠い適わぬ存在に見えているのであろう。

 さて,何か打開策はあるのだろうか。国の施策と言わない,まず我々の段階で実行できるのは,やはり学生教育あるいは学生と接する中で,外科系メイジャー診療科は宝石のように散りばめられたスペシャリティの集合であり、幅が広く、かつ、奥が深い、その専門性を必要とする患者さんがたくさんいる事。医療の根本は生命を助ける、First Aidであり、その中で外科は貴重な存在であること,を説くこと。病院の診療体制としても,名ばかりのチーム医療のかけ声ではなく、外科医を実質的にサポートする専門看護師、ICU担当麻酔医、循環器内科医、臨床工学技士が周術期管理チームをして実質的に外科医をサポートするシステムの構築。仕事のskill, time, endeavor, risk, responsibilityに応じた給与体系とインセンティブの適切な付与等の実行であろう。

 そして何より、勤務医や開業医を問わず全診療科の医師達が、メジャー外科を志し奮闘している若い医師に対して暖かい眼差しを注ぎ、心からの支援を送ることであると信じている。

(山形県医師会会報より抜粋)